2017年10月22日日曜日

【書評】善と悪の経済学(トーマス・セドラチェク著。2015年)

 久しぶりの書評です。表面的なテクニックに留まらず「あるべき」という倫理を追求することは、改めて仕事に当てはめる必要があると感じさせられました。

 本書は、経済思想は本来、哲学、宗教などと密接に関連し、常に「倫理的な規範」「善と悪」の価値判断と不可分であるが、現代の主流派経済学は分析的アプローチと数学モデルによってこうした倫理と決別したように=「価値中立的」に見える。しかし、実は「効率性、完全競争、高成長」「快楽追求・効率至上主義的」に価値を置いているとし、リーマン・ショックの問題も契機に、物質的反映がもたらす幸福を躍起になって追い求める「経済成長」よりも巨額の債務に依存しない安定性がより重要であるとしている。

  • 経済学の魂はあるのか。ある。市場経済が望みどおりに機能することが本当の問題。そもそも私たちは市場や見えざる手にどのように働いて欲しいのか。
  • 値段を付けられる価値は一部にすぎないのに、どうして価値計算ができるのだろうか。
  • むしろ値段の付く価値を値段の付けられない価値に対比させて、ときに破壊的な影響を及ぼす。→問題の解決方法:
    • ①値段の付かないもの(ソフト)の価値に値段をつける(e.g. きれいな空気の「値段」はCO2排出権と同等に考える)、
    • ②値段の付くもの(ハード)に市場を認めない(e.g.美しい景観(ソフト)の中に広告塔(ハード)を設置することを一切禁止する)、
    • ③ハードな数字のほうをソフトにし、広告の値段を”ファジー”にする。
  • 法律をつくるのは法律家と詩人だ、という歌がある。思うにいまの経済学者は、数学者あるいは法律家に偏りすぎて、哲学者あるいは詩人の部分が乏しすぎる。
  • 経済学は、
    • 数学的理解よりももっと幅の広い魅力的な物語である
    • 規範的な要素を多く含んでいる
    • 他の学問(哲学、神学、人類学、歴史学、文化史、心理学、社会学)と深い結び付きがある
    • モデルに示された数式や分析よりも多くのものが詰まっており、数学は外から見えるごく一部に過ぎない;多くの問題は曖昧で神秘的で、決定論的モデル構築になじまない
    • 数字が語ることを無視すべきでないが、モデル化できないことを無視してもいけない
    • メタ経済学(経済学には説明のつかない要素が実にたくさんあり、経済思想の多くは宗教的・感情的な要素を伴っていることをもっと認識すること)が今以上に必要。

0 件のコメント:

コメントを投稿