【評価:
】 (興味関心があれば読むことをおススメ)
本書は天皇、統帥権、仏教、神道、儒学など我が国にまつわるテーマとした短編コラム(1986年~1996年)をまとめたもので、日本人や日本をかたち作っている何かを探す意味で興味深い。
<印象深かった内容>
【第4巻】
(日本人の二十世紀)
・我が国の為政者は手の内(特に弱点)を明かさない-不正直は国を滅ぼすほどの力がある
・日露戦争の時は武士の気分がまだ残っており、軍人も外交官も武士的なリアリズムや職人的な合理主義があった(故に海軍、陸軍、外交においてロシアに一矢報いることができた)
・知識人に軍事的教養がないことが、第二次世界大戦に繋がる軍部の戦略を批判することもなく、軍部の気分に乗ることが愛国と思われるようになった原因であった
・近代国家は石油という巨大なエネルギーを消費しながら航海している。目標を失うと必ず江戸時代などへの回帰論が出てくるが現実逃避はできないので、次なる目標を考えないといけない。
⇒商人国家のリアリズムに基づき、状況状況で自らを慰め、相手に訴える、素晴らしいレトリックをウィットとユーモアに富んだ華やいだものとして展開する必要。
【第5巻】
(人間の魅力)
・昭和初年から太平洋戦争終了までの日本は、過去の長い日本史とは不連続な異端な時代であった(統帥権の無限性と帷幄上奏権により日本国をほろぼし、他国にも深刻な罪禍を残した)
・物事を成す魅力-坂本龍馬(薩長同盟や大政奉還(船中八策)は海援隊の片手間)
・底抜けに明るく、褒め上手だった大秀才-吉田松陰
・風雲に臨む気質-高杉晋作
【第6巻】
(歴史のなかの海軍)
・改革者としての
山本権兵衛。海軍建設にほとんど独裁的な辣腕を振るえたのは、海軍大臣西郷従道(西郷隆盛の実弟)の理解と支えがあったからだが、一大人員整理案(無能老巧の将官8人(多くは同郷の薩摩人)に左官尉官含めて97人のクビを切る)だけは、従道も驚いた(が支持)。
・その改革の全てはロシアに勝つため。日露戦争に向け、軍艦の質を高水準に、燃料を良質の英国炭に統一、無線電信機を搭載、そして、同胞の朋友の現役長官から退役リストに入っていた東郷平八郎を連合艦隊長官に抜擢。
・以上の結果、日露海戦に勝利したが、自らの功を誇ることなく、戦後、東郷の功のみを褒め称えた。
(役人道)
・アジアでは歴史的に官僚組織を作れば平然と汚職する(科挙試験を一青年が突破すると一村が潤うため、村を挙げてのお祭りとなる)。いわばアジア的な大家族主義で、自分が太ればいいというところがある。
・日本の厳格な官吏道は江戸中期に確立したが、その原型は鎌倉幕府の事務官であった大江広元、青砥藤綱に遡る。彼らは日本的な法治主義者として、私服を肥やすことからおよそ程遠かった。
・明治政府は江戸期からの役人道を相続したが、それが明治日本という国家社会をアジアの一角で展開できたほとんど唯一の基礎的条件だったといえる(八幡製鉄所を作るのに大きな金を寝かせたが管理する役人に一人としてそれを食った者がいなかった)。
・この点、今の日本社会(1996年時点)は、律令体制と縁を切って(鎌倉幕府の成立)以来700年ほどかけて作った非常に不思議な社会から、政界を核にしてアジアに還ってきつつある(自民党は古いどろどろとした非常にアジア的な体質にまみれている)。
・最近は公共土木工事の談合が問題化しているが、江戸期の土木工事は、当初予定していた費用を結果として上回った(藩に損害を与えた)として現場で切腹して死ぬケース(薩摩藩士51人の自刃)や治水工事のために家産を傾けて実施した庄屋階級のケースなど、みんな手伝いや持出しなど誰も儲かることはしなかった。
・日本的な「公」というもの=日本の歴史そのものが我慢してきたこと
日本では、社会や組織を私物化するのではなく、社長であってもいわば預かり物として狭い権限内で自分に出来ることを可愛らしくやる。世間はそこからはみ出した可愛らしくないやつを叩く。自分の中にある、自分が我慢してきた、日本歴史そのものが我慢してきたのに、あいつは何だという「公」の思想が無意識のうちに批判の基準にある。