本書は、これからの日本経済の構造的な問題として、生産年齢人口の減少、人口高齢化と富裕層=高齢層を原因とする内需の縮小と言う現実を捉えないと経済政策は成功しないと説くもの。すなわち、経済対策として挙げられがちな、生産性を上げる、経済成長率を上げる、公共工事を景気対策として増やす、マネーサプライを増やしてインフレ誘導をする、環境技術の開発でモノづくりのトップランナーであり続ける、などはその現実の前には実効性が欠けると訴えます。むしろ、以下の3つが必要。
① 高齢富裕層から若者への所得移転を - 企業は団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回す/消費に消極的な高齢者からお金を引き出す高齢者市場を開拓/生前贈与の促進(贈与税の軽減と相続税の増税。現在の相続では遺産を受け取る人も老人予備軍で消費は期待できない)
② 女性の就労と経営参画を - 専業主婦の4割が働くだけで団塊世代の退職は補える/女性の就労率が高い県ほど出生率も高い
③ 外国人観光客・短期定住客の受入を - 付加価値率が高い観光収入/公的支出の費用対効果が高いビジットジャパンなどの観光政策の強化
感想ですが、この人口動態という構造的な問題に対応するべきという指摘はそのとおりだと思いますが、団塊世代の引退に伴う雇用数の帳尻合わせをするだけでなく、魅力な雇用市場を維持発展するためには、成長産業への投資も必要になりますから、両方とも同時にやっていくということなんでしょう。生活保護者が戦後と同じ200万人という水準になっている現実も考えないといけません。
また、企業は若者の給与を上げるべき、としていますが、どのように実現するかも考えていかないといけません。個々の企業が賃金を上げて若者の消費を増やし、内需を拡大させるという戦略は、一企業の視点からは「ただ乗り」(フリーライダー。他の企業の賃金上げによる内需拡大の果実を労せずに獲得する)することが魅力的となります。このためには経済界での申し合わせなど足並みを揃える必要がありますが、その声を上げるインセンティブもないでしょう。行政の介入が必要なのかもしれません。
それにしても本書は講演をまとめたからでしょうか、言い回しが乱暴、説明がクドイ・不親切(自分の意見と異なる人達をマクロ経済学信望者などと言っていますがそのマクロ経済学のセオリーなどの説明がないので、詳しくない人にとっては何のこっちゃ状態)な箇所が散見されます。内容は真面目なだけに格を落とすようで勿体ない気がします。
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