2013年9月19日木曜日

【書評】はじめて学ぶ日本外交史(酒井一臣)

本書は、江戸時代末期から戦後までの日本の外交史をトピック的に分かりやすく紹介するとともに、文明国標準という観点から、近現代の日本と国際関係を描くもの。

・幕末に渡米した旗本の外交官(村垣範正)は、その技術力には驚くものの、徳川幕府に比べて儀礼のないアメリカを「野蛮」な国と捉えていた。
・19世紀の国際法・国際体制には西洋諸国に有利な「文明国標準」の発想があり、欧米諸国のような「文明国」ではない国や地域に対しては、文明国間の方や制度は適応しないという考え方。、
・日露戦争を経て巻き起こった「黄禍論」(多くの労働移民を送り出した中国人や近代国家として力をつけてきた日本人などの黄色人種の勢力が、それまで世界を支配してきた欧米列強の白人諸国の脅威になるという議論)に対して、日本のアダム・スミスと呼ばれる経済学者の田口卯吉は、「日本人は白人である」という主張(打算を働かせて西洋文明に順応するしかないと訴えたかのだろう)をした。
・明治時代以降、アメリカで日本人移民に対する排日運動が起きたが、外務次官・駐米大使を歴任した日本の外交官(埴原正直)からも見捨てられ、日本人移民は醜く不健全な「下等人種」であり、「恥を国外に曝」していると厳しく評価された。
・第二次世界大戦に至る前、日本外交は国際協調を目指したが頓挫した。それは「愚民」に外交は理解できないとする幣原喜重郎をはじめとするによるエリート外交主義の限界であり、民主化が進む社会が大衆化したことにより、流されやすい世論に抗しきれなくなったことが一因である。
・1930年のロンドン海軍軍縮条約では、日本の補助艦比率を米英の69.75%にすることが決められたが、これは比率を6割とすべきとする英米と7割でなければ国防上困難とする日本の主張を、文官で大蔵省出身の元首相、若槻礼次郎が猛勉強の末、シビリアン・アドミラルと言われる程の軍事知識を基に、0.25%譲歩して名を実の両方を確保した結果であった。しかし、それらを断固進めたライオン宰相の浜口雄幸は銃弾を受け帰らぬ人となった。
・満州事変やその後の侵略については、政党政治(選挙で選ばれる衆院の二大政党の党首が首相を務めた)の時期に行われたものであり、不況に苦しむ不満を無謀な軍事行動を喝采することで晴らそうとした国民の責任を忘れてはならない。
・国際連盟に派遣されたリットン調査団は、満州国を認めないものの、中国側の反日行動も批判し、満蒙地域に自治政府をつくり国際管理することを提案する報告をまとめた。これは、日本との決定的関係悪化を避けたい英仏米の意向が反映された日本への配慮に満ちたものであり、満蒙が日本の特殊権益であることを認める日本に有利な解決策といえた。しかし、日本は受入れず、松岡洋右は国際連盟脱退を宣言せざるを得なくなった。松岡は会議場を出ながら「失敗だった」と呟いた。
・1930年代前半は、日印会商、日蘭会商、日フィリピン交渉、日豪会商など、経済外交を通じて欧米諸国と互いに依存しあう国際協調外交を展開した。しかし、日本が侵略姿勢を改めない限り、本当の親善(正常な国際協調外交)は困難であった。
・日中戦争を拡大・悪化(南進、東南アジアの侵略、欧米との関係悪化、対米開戦)させたのは実は軍部ではなく(陸軍は対ソ戦略から日中戦争の拡大を望んでいなかった)、世論に敏感でその場限りの対応に終始し、自ら責任を負うことを避けた近衛文麿首相であった。決められない政治家の責任はやはり重い。
・植民地の独立時に宗主国にいる植民地の人には、国籍選択の自由が与えられるのが一般的だが、終戦時に日本に200万人いたとされる朝鮮人に対して、日本政府は、朝鮮が開放されたので彼らは日本人ではない、という立場を取った。これは戦時労働への補償を減らしたいという思惑もあり、日本人という枠組みを都合よくを使い分けた。現在の日本は当たり前のように単一民族と思われていて、在日韓国朝鮮人の問題をこの「元日本人」の問題と意識する割合は非常に低い。日本人とは何か?という問題である。
岸信介首相時代に最盛期を迎えた安保闘争は、自民党に教訓を残した。憲法改正や安全保障を表立って議論するのはタブーということだ。政権を維持するためには、経済成長政策を全面に押し出し、利益の配分に集中すればよい。
・北京入りした田中角栄首相に対して、日中共同宣言の交渉後、毛沢東国家主席は、「もう喧嘩は終わりましたか?」と尋ね、会談は友好的でしたと答えると「雨降って地固まるということもあります」と述べた。隣国だからこそこれまで利害が錯綜して衝突を繰り返してきた。様々な出来事が引き金となって両国間に雨が降ることもあるが、そのあとどうやって地固めするのか、つねに考えるべき課題である。
・今の「グローバル化」や「世界標準化」も、文明国標準と似た面が多い。

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