2014年9月19日金曜日

【書評】[新訳]南洲翁遺訓(松浦 光修 2008年)

本書は、幕末に寛大な処置がとられた庄内藩がまとめた、西郷隆盛の43の言葉をテーマ毎に並び替え、現代訳したもの。国を憂う想いや考えは、現代にもそのまま通じるものがあり、日々の仕事や生活でも考えさせられるところが多々あります。
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【政治の教え】
  • 人材の登用-役職は人の能力に応じて。過去の功績に対してはお金で報いる
  • 組織は、進むべき大きな方向が定まり、指揮命令系統がしっかりしていることが大切
  • 政治で大切なことは、「文化」「安全」「経済」の3つでその優先順位は時によって異なる。
  • 君子の器ではないコセコセしている小人には、その人物にふさわしい小さい仕事を任せて、才能や技術を発揮してもらう
  • 税金を軽くして人々を豊かにすることが、国力を養うことに直結する
  • 会計や出納の心構え:収入の分しか支出しない
  • 軍の士気を高め、選りすぐりの精鋭を集めておけば、過剰な軍備は不要
  • 君主も家臣も「まだまだ働きが足りない」と考えなければ、人の意見に耳を傾けられず、忠告してくれる人も周りからいなくなってしまう
【時代の教え】
  • 政治に携わる者は、常に慎みの心を持ち、品行正しく、倹約を心がけ、仕事に一生懸命に取り組む、周囲の手本にならないと納税者は納得して従わないし、義のために散った戦没者に申し訳が立たない
  • 我が国らしい所をしっかりと固め、国民の道徳心を高めた上で、外国の良いところを静かに取り入れること。手当たり次第に欧米の文物を輸入することは、国力を消耗し、人々の心も軽薄になる
  • 西洋は後進国に酷くて残忍なことをし、私利私欲を満たしてきたという意味で「野蛮」だが、悪い人間を良い人間に更生させることに気を遣った刑罰制度は「文明」
  • 忠孝(社会的、家庭的な規範を守る心)・仁愛は人類共通の不変の価値
  • 節操、道義、恥を知る心、美しい心を国民が失ったら、国は持たない
  • 正しい道を進み、まっすぐ貫き、その結果、""となっても国ごと斃れてもよいという覚悟で望まなければ、外交も政府の仕事も成就しない
  • 人の世の動きはいつも変わらないから、『春秋左氏伝』や『孫子』とった古典から国際情勢の動きと対処方針を学べる
【事業の教え】
  • どんなに大きなことも小さなことも、正しい道を選んで進み、至誠を以て事に当たるべきで、汚い策略など一つもめぐらせてはいけない。戦争以外の日常生活で、策略を使ってはいけない
  • どんな制度や方法を確立しようと、そこに"人物"がいてこそ初めて活きる
  • 命もいらず、名誉もいらず、役職も肩書きもいらず、お金もいらない、そんな始末に困る人でなければ苦難を共にし、国の命運にかかわる大きな仕事はできない
  • 普段から「正しく生きる」(正義のためなら死をも厭わぬ)という覚悟を固めておかないと、突発事態が起きた際に臨機応変に対応できず、即座に打開するような妙案が出てくるはずがない。君子のような人であっても、普段からの備えが肝心。ふだんの何事もない時に、心を静かにする時間を作って、色々なことを想定して、心の準備をしっかりしておかなくてはいけない
  • 人と交渉するときは、私心にとらわれることなく、公正な心をもって、ひたすら真心で当たっていくのみ
  • 私なんか、と思うことなく、聖人や賢人の知識を自分の問題に当てはめ、対処方針まで考えることが大事
  • 世間からは「運がいい」としか思えない人も、見えない才能や努力や勇気が背後にあって、成功している人が多いもの
  • 天下は、誠がなければ動かないし、才能がなければ治まらない
人生の教え】
  • 自分の志を貫いて、結果として我が身が砕けてもそれを誇りに思い、逆に自分の志を曲げて、その結果我が身が長持ちしたらそれを恥に思う
  • 「天を敬い、人を愛する」境地に達するためには、"己に克つ"(自分にとらわれない:わがままな、無理強いする、頑なな、独り善がりの心がない)意識を持つこと。自分の心のありようを、根本から己に克つ状態に変えておけば、一つ一つの出来事に、過敏に反応することもなくなる
  • 学問は、小さな分野で小さくまとまろうとせず、広く学ぶことを目指すと同時に、弱い自分に負けない己に克つ、この二つを両立させ、人物を高めることが一番大切。どんな人でも受け容れられる大きな人物になり、人に受け容れてもらうような小さな人物になってはいけない
  • 天は自分も他人も同じように愛して下さるものであり、自分を愛するのと同じように、他人を愛すること
  • 人を気にせず、天を気にして生きていくこと。今、自分に出来る限りのことをしていけば、それでよい。うまくいかない時があっても、決して誰かを何かを責めたりしてはいけない。そういう時こそ、自分の誠がまだ足りなかったのではないか、と自分の心を顧みなければいけない
  • 一番善くないこと:自分に執着する(己を愛する)ことだけは、決してしないこと
  • 何か失敗した時は、その失敗を自覚すれば十分で、後はキッパリ忘れて、過去を振り返らず、すぐに新たな一歩を踏み出すこと。失敗したことをいつまでもクヨクヨと思い返すことは、全く意味のないこと
  • "正しく生きる"ことは庶民であろうと関係なく実践でき、また、実践しなければならない。例えどんなに苦しく辛い場面に直面しても動揺せず、そんな時こそますます"正しく生きる"ことによって乗り越え、そういう苦難を楽しむぐらいでないといけない
  • 正しく生きる覚悟があれば、世の中の人すべてが自分をけなそうとも落ち込まず、すべての人が自分を褒めても舞い上がってはいけない
  • 正しく生きるならば、本人に聞かれたら困るようなことを、影でコソコソと言わないこと
  • 世の中で、後世の人からまでも、信じて仰がれ、喜ばれて慕われるものとは、本物の誠の心だけ
  • 君子の心の中は、いつも湯上がりのように爽やか極まりないのだろう

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