2013年10月18日金曜日

【書評】アメリカの政治 新版(久保 文明 [編])

【評価:】(興味関心があれば読むことをおススメ)

本書は、大統領、議会、最高裁判所、政党を日本の首相、議会、最高裁判所、政党と比較することでアメリカの政治を全体的に把握できる入門書。単純にアメリカの状況を日本に置き換えることや、アメリカの制度を日本に輸入するべきという意見に警鐘を鳴らしています。また、債務上限問題が伝統的・根源的な党派対立であったり、中東・アジア外交が古くからの米国の対外戦略の延長線上にあることが分かります。そのほか、1960年(ケネディ)~2013年(オバマ)までの内政・外交の流れがコンパクトにまとまっています。

【アメリカの独立】・・・人は生まれながらにして平等であり、生命、自由、幸福の追求などの自然権を持つ。それらの権利を守るための政府であり、必要とあらば新たな政府を樹立することができる(「独立宣言」)

【合衆国憲法】
・「連邦制」:邦政府と州政府との間で主権が分割(連邦に委託された権限以外は州・人民が保有) 
・「権利の章典」:人民の自由や権利(基本的人権)を保障

【連邦制】・・・州以下の地方政府に多くの自立性が認められている
・メリット:地方政府は多様なアイデアを提示、競争しあう環境 ➔ 多様な選択肢を提供
・デメリット:連邦レベルの争点に否定的な対応(例:人種差別の存続)、アメリカ全土での一律のサービス実施が困難(例:社会福祉。再分配政策は増税が不可避、貧困者が集まることから地方政府は忌避。むしろ企業を利するような開発政策が志向される)

【大統領】・・・国民から選出
・法案拒否権を持つ。行政権は大統領「個人」に属する。官僚制を統制(政府高官(局長以上)約3,500人を任命。このため政策転換のインセンティブが働きやすい)。
・一方、法案も予算案も議会に提出できない(議員提出法案のみ)。与党が常に多数派とならない(少数党となる「分割政府」がかなり頻繁)
➔ 国政の重要な政策課題の設定(アジェンダ・セッティング)や、法案審議過程において党派を問わず個々の議員と交渉・取引を行うこと、就任演説・年頭の一般教書演説・記者会見などで信念とビジョンを語り世論そのものを動かすことが重要(二期目の大統領は、歴史に自分の名前をどう残すのかという観点から仕事をする傾向)。

【議会】・・・下院(任期2年)は州の人口比例、上院(任期6年)は各州2議席
・多数のスタッフによるサポート(下院議員で平均15人、上院議員で平均35人:連邦議会全体で2万人以上の職員)
・法案審議における政党規律は必ずしも厳しくなく、選挙区や州の利益を優先させることも多かったが、特に重要法案は党の方針に従って結束する度合いが高くなっている
・議員単独で法案提出できるため、選挙区・利益団体への顔向けとなる「スタンドプレー」法案も多く、成立率は5%

【最高裁判所】
・「連邦制度の要」:州と連邦は自らの権限を最大限行使するため、権限の衝突の問題をアンパイアとして最終判断を下す役割
・「人権保障の砦」:財産権に関わる経済的規制の審査基準を弱め、精神的自由権の保護を厚くする判例法理を構築
・・・平等権[人種差別是正]、自由権[表現の自由、デュー・プロセス条項に基づくプライバシの権利(例:妊娠中絶)]

【政党】
・有権者:政党本位から政策本位(候補者本位)への移行、多様な政治参加の機会(例:環境保護団体、利益団体)
➔政党のイデオロギー対立・二極化※(例:共和党の保守路線)、各党の議会内のまとまり・団結力の向上
※環境保護や消費者保護といったイデオロギー対立の起こりにくい争点が不当に軽視される恐れも

【外交】
・アメリカ外交の伝統
①孤立主義(諸外国の政治問題に関わらない「不介入主義」、行動制約に繋がる同盟関係を結ばない「単独主義」)➔
②国際主義(アメリカの普遍的原則を世界大に広め、そのために諸外国と協調)

・ブッシュとオバマ外交
①ブッシュ:単独主義(安全保障重視:自国や同盟国の安全の確保、産業界主導の自由な経済活動)
②オバマ:理想主義・国際協調主義(理想へのコミットメントと現実の転換、国連やG20、G2(米中)協力の重視)

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