2014年2月6日木曜日

【書評】2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」(米国国家情報会議 編)

本書は、アメリカ大統領にも渡される未来予測レポートとのことで、1995年に国家としてのピークを過ぎた日本の国力は、人口減少・高齢化とともに衰え、2015年にはアメリカもピークを迎え、「唯一の超大国」の地位から脱落。経済発展著しい中国も2025年あたりを境に経済が失速、日本と同様高齢化社会を迎え、2030年ごろ経済成長著しい国はインド・ブラジル・イランなどとされています。

1.メガトレンド(2030年の世界の構造を決定付ける4つの構造変化)

個人の力の拡大…貧困層が激減し、アジアを中心に10億~20億人もの新たな中間所得層が誕生
-中間所得者層の拡大➜自動車や日用品の需要は急激に伸び、深刻な資源不足を引き起こす可能性
-世界的に中間層が増えることで、先進国の中間層の存在感は薄まる(米国や日本お中間層の購買力は、将来的にはとても小さなものに)
―「イデオロギーの衝突」が不安材料➜長期的には、欧米型の価値観と新興国側の考え方を混成させた「ハイブリッド型」のイデオロギーが生まれるのではないか

権力の拡散…アメリカを始め欧米各国の力が衰え、世界は「覇権国家ゼロ」状態に
-発言権を持つ国家の数が増える一方、国家ではない非公式なネットワークの発言力も増す➜1750年以降続いてきた欧米中心主義を反転させ、アジアが再び国際社会と国際経済の主役にやることを意味&多様な意見が政治の場に反映されるのはいい面もあるが意見の取りまとめは難しく、政策立案が難しくなるという難点も
-国力比較によると、2030年までにアジアの地域としての力は北米と欧州を合わせた力よりも大きくなる見通し
-2020年代のどこかで、中国は米国を抜き世界第1位の経済大国に。相対的に、低成長を続ける欧州や日本、ロシアの経済力は弱まる
-世界のあらゆる地域内で交代(例)アフリカ:エジプト、エチオピア、ナイジェリア≧南アフリカ/東南アジア:ベトナム=タイ/ラテンアメリカ:ブラジル、コロンビア、メキシコ➜ブラジルが「南米の巨人」/ロシアは急速な人口減に直面(約1000万人減)➜移民を受け入れ、経済成長を保てれば、現在の国際社会での発言を維持
―世界のトップは、2,030年~2040年の間に米国から中国に交代。一方、日本の国力がじりじりと低下。すべての先進国のグラフが右肩下がり
―一国で国際社会をリードするような「ヘゲモニー=覇権国」は消滅。米国も中国もその役割を果たせず。一方、国家ではない団体やネットワークが国際社会での発言力を増すように➜多様な意見が政治の場に反映される面もあるが、取りまとめ&政策立案が難しくなるという難点も

人口構造の変化…高齢化や若者の減少、移民や都市化が世界のあらゆる地域で進む

食糧・水・エネルギー問題の連鎖…怖いのは天候不順。シェール系燃料の開発でエネルギー不足は解消か
-天然ガスの生産量が増えることで、2030年までに石炭から天然ガスへの切り換えが進みます、これは二酸化炭素の排出量を減らすうえで絶大な効果をもたらします、安くて豊富にある天然ガスの普及により、水力や風力、太陽光などの再生可能エネルギーに対する注目はかすみがちです。

2.ゲームチェンジャー(世界の流れを変える6つの要素)

① 危機を頻発する世界経済・・・新興国、特に中国・インドが世界経済の牽引役に。ただし中国は緩やかに失速
 -負債が減少している先進国は、米国、オーストラリア、韓国の3カ国だけ
 -最も不安な国は日本(急速な高齢化+人口減少→長期的に経済成長を実現させる潜在力はきわめて限定的)→短期的に経済成長を犠牲にしないと、膨らむ負債を解決することはできない
 -失速する中国経済(高齢化、5%程度の成長率に落ち着く)
 -インドの躍進(2025年までに日本やドイツを追い抜き、世界経済の成長の柱に)

② 変化に乗り遅れる「国家の統治力」・・・ITの発達等により国民の権利意識が向上、国家の統治力は次第に衰える
 -民主主義に移行中/民主化不足の国家(中東、中国、ベトナム)は不安定
 -IT活用で、犯罪活動を含めた国民活動すべてを政府が簡単に監視・掌握できる
 -安保理、世界銀行、IMFなどの国際機関は、G20のように現状に即した最新版にアップデートされ、姿を変えていくはず

※ 案件別にみた2030年「多国間協力」のシナリオ
[気候変動]
最善のシナリオ-LNGによりCO2削減が進む。発展途上国でも経済成長により環境問題に取り組む経済的な余裕が生まれる
最悪のシナリオ-景気後退が逆風となり、主要排出国の間で新たな合意が締結される可能性は低い。国連の環境会議は、締結に拘束力がなく進展は期待できない


③ 高まる「大国」衝突の可能性・・・史上稀な平和な時代だが、中国VS.インド、米国VS.中国が表面化する可能性も
 -国内紛争は減少傾向に(成熟化が進む南米や東アジアでは順調に減少。残るはサブサハラ、中東・南アジア、アジア太平洋諸島)
 -高まる国家間紛争の可能性(中国とインド[アジアの覇権]、米国と中国[制海権]、水資源を巡る争い[北アフリカ、中東、中央・南アジア、中国北部])
 
④ 広がる地域紛争
 -南アフリカ:コンゴ、ソマリア、サヘル地帯が最も不安定な地域
 -中東:イランの核開発、サウジアラビア王家の没落、エジプトの原理主義政権、イラク・シリアの内紛激化
 -南アジア:パキスタンとインドの対立、アフガニスタンの経済破綻状態
 -東アジア:中国の経済的・軍事的な台頭と近隣諸国との対立関係
 
⑤ 最近技術の影響力・・・人間の暮らしを大きく変えるテクノロジー、焦点となるのは4つの分野
 -情報技術・・・3つの注目トレンド(データ処理、ソーシャルネットワーク、スマートシティ)
 -機械化と生産技術・・・3つの機械化(ロボット、自動運転技術、3Dプリンター)
 -資源管理技術・・・鍵となる3つの技術(遺伝子組み換え食物、精密農業[無人化]、水管理[マイクロ灌漑])
 -医療技術・・・健康管理分野の2つのトレンド(病気管理[遺伝子解析]、能力強化技術[義肢])

⑥ 変わる米国の役割・・・影響力は衰えるもトップ集団1位に留まる。ただし「米国の没落」の可能性も
-弱まる基礎体力(非効率・高額な医療保険、中央教育の水準低下、所得分配率の低さ、軍事力の低下)

3.オルタナティブワールド(4つのシナリオ)

① 米中協調型・・・第三国で勃発した地域紛争への介入を機に、米中の協力体制が確立
 -世界経済の収入は約2倍の132兆ドルに。新興国の高成長+先進国も経済成長
 -南アジアでの軍事協力を機に米中が協力、環境問題や資源問題にも一緒に取り組めるように

② 非政府主導型・・・グローバルな人材がネットワークを駆使して世界を牽引する時代に
 -テクノロジーの進歩で、NGO、大学などの教育機関、裕福な個人などの非政府主体が世界のリード役に
 -大学などでは国境を越えた人材交流によりグローバル規模で同窓生が生まれ、つなぎ役に
 -世界規模でエリート層と中間所得者層が増加→環境問題といった課題に、世界中の人々が一丸となって取り組む
 -国家の役割は、国と国、国と非政府期間を結ぶコーディネーター役に留まる。一方、NGO、多国籍企業、IT企業、世界的な科学者なども活躍の機会が増え、寄付や慈善活動も重要性を増す

格差支配型・・・経済格差が世界中に広がり、勝ち組、負け組が明確に。EUは分裂
 -米国は安価なシェール系燃料で勝ち組になるも孤立主義を強める
 -EUは競争力の低い南欧諸国がユーロ圏から追い出され分裂、力を失う
 -アフリカ国家は分裂の危機、テロ活動や犯罪行為の温床に
 -中国では国内格差(湾岸大都市謳歌、共産党とのパイプ)→国粋主義的な姿勢を強める

欧米没落型・・・欧米が対外的な力を失い、世界は大きな混乱期に移行
 -欧米は世界のリーダーとしての能力・意欲を失い、政権は過激な国家主義、国粋主義に。2020年までに自由貿易圏は消滅
 -中国・インドは政治腐敗、インフラ・金融システムの弱さ→経済成長に急ブレーキ

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