2014年3月11日火曜日

【書評】デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する(吉川 洋 著)

【評価:】(興味関心があれば読むことをおススメ)
本書は、週刊ダイヤモンドで2013年経済書籍ランキング1位を獲得したもので、今日的なデフレ現象の原因について、経済学議論を省みながら自説を展開するもの。機を見るに敏ではないが、アベノミクスの三本の矢への世の中の関心が、とかく学際的な議論・主張を行う本書に注目を寄せる契機になったことは言うに及ばない。

【ポイント】
・デフレは、過去15年の我が国のマクロ経済政策を巡る議論の中で、まさにキーワードだった
・その答えはマネーサプライの中にはない。スタンダードなマクロ経済学では、貨幣(マネーサプライ)を増やせば、利子率の低下や投資・消費の刺激といった期待(流動性のわながあっても将来への期待)が高まり、デフレは止まるという(貨幣数量説)。しかし、ゼロ金利状態では話が違い、現に貨幣数量を増やしても実体経済にプラスの影響を与え物価を上昇させる、ということはなかった
・人口減少、生産年齢人口の減少が、日本経済の長期停滞原因➔デフレの正体という説も正しくない。確かに経済成長にマイナスの影響は与えるが、インパクトは小さい。むしろ一人あたり所得の上昇、即ち設備投資等を通じた資本ストックの増加と技術進歩によるところが大きい

・デフレは長期経済停滞の結果である。
・「失われた20年」と言われるが実際は10年。日本の一人当たり実質GDP成長率は、米国と比べるとそれほど遜色はなかった。しかし、金融問題、即ち不良債権問題、金融システムの動揺(とりわけ97-98年の金融危機)、それに伴う株価の低迷は、90年代~2003年にかけて日本の成長を大きく阻害
・さらに、デフレに陥るほどの長期停滞を招来した究極の原因は、イノベーションの欠乏。デフレ・バイアス=消費マインドの低価格志向(安いモノへの需要のシフト)+企業のプロセス・イノベーション(グローバル競争での1円でも安いコストダウン)➔新しいモノやサービスを生み出す需要創出型のイノベーションがおろそかになった
・日本だけがデフレに陥ったのは何故か=日本だけ名目賃金が下がったから。終身雇用制の崩壊後、大企業を中心に「雇用か、賃金か」という選択に直面した労働者は、名目賃金の低下(雇用を守ること)を受け入れた
・1%の物価上昇のためには、2.5%の賃金上昇、そのためには失業率が2%台になる必要がある。

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